配慮したく無い人への配慮
最近はデリケートなものを持ち上げて正論を言って承認欲求を満たすだけの豚共が権威を手に入れつつある。
例えばLGBTの例もわかりやすいが、そのような異常性癖に配慮して社会を作るととんでも無いことになる。
まず、自分が男だからゲイに関するエピソードに触れておこうと思う。
自分は中高男子寮に入っていたこともあり、ゲイをよく知っている。
かくいう僕も、ゲイをカミングアウトしてきた友達に、そいつが預かっていた僕宛の女の子からの手紙をダシにされ、フェラチオを強要されたこともある。
実際にそのチンポを舐めたかどうかはご想像にお任せするが、僕はゲイじゃ無いから非常に不愉快だった。
不愉快なのでゲイはすきじゃない。トラウマのような感情すらある。ホモフォビアだ。
でも、ゲイに対する配慮は社会からしてもらえるような動きなのに、僕のようなホモフォビアに対してはなんのケアもない。
この時点でこれらのデリケートなものに対する動きは破綻しており、ひどく歪んでいると思う。
最近の男女参画にも思うところがある。男女を本当に平等にするにしては女の運動能力はあまりにも弱すぎる。
国ぐるみで女の遺伝子を改造し、腕力知能共に向上させる必要性すら生じるレベルだと思う。
でも誰もそんなことは望んで無いと思うので、結局のところ話題性を集めて自分の権威を主張する連中のいいダシに使われてるだけなのだ。
僕は配慮の強制が嫌いだ。
見ず知らずの障害者に配慮したく無い。自分とは無縁の性癖に配慮したく無い。人種に配慮したく無い。頭の悪い人間に配慮したく無い。
もちろん僕が自ら配慮したいと思うことだってある。結局のところ僕も誰かを頼らないと生きてはいけないので、円滑に生活するために誰かへの配慮は欠かせないと思う。
でもそれはマナーの範疇であり、社会から強制される配慮はとても不自由に感じる。
自由が大好き某国は黒い肌のブスや醜い体つきをしたデブを無理やり映画に起用しなければいけなくなったし、アニメーションですらそれらをなぞらねばバッシングされてしまう歪んだ文化へと成長してしまった。
日本もいつかそうなってしまうのかと思うととてもいやな気分になる。
SNSではちょっとした一言が誹謗中傷となり、相手のことを配慮して発言しなければいけなくなった。
相手が心に何か地雷ポイントを抱えておれば、たとえ的を射た事を言ったとしても、地雷を踏み抜いた僕が悪い人間となる。
確かに僕はその手の「かわいそうな」人たちと比較したら地雷ポイントも少ないし、彼らの気持ちもわかってあげられないから、無神経なことをしてしまうのかもしれない。
でもそれを理由に僕がノンデリだと言われるのは侵害である。
ブスが自撮りをいきなり晒して、顔がおかしいと言えば
コンプレックスなのに!
って返してくるブス、コンプレックスは人に見られたく無いものなのにどうして自撮りを晒すのだろう、そしてどうしてコンプレックスを踏み抜いただけの僕が加害者になるのだろう。
本当にインターネットも生きづらくなった。
ここだけは自由だと思っていたのに、ここでも理不尽な配慮が強いられている。
だから僕はその手のユーザーは徹底的に追い詰めるし、彼ら彼女らのためにもアカウントが消えるまでボロクソに叩きまくる。
僕は君らに配慮したく無いし、自由に発言したい、彼らは僕のような人間から批判されずに済む。winwinだと思う。
公開垢で訳のわからないムーブするくらいなら「縮小」アカウントで身内と鍵付きで馴れ合ってて欲しい。
僕も流石にそこまでは切り込まないので。
こうやって配慮しなくて済むような真の平和なインターネットライフを僕は構築したいと思う。
ロールプレイング犬
吾輩は犬である。
犬の作り方は簡単である。
国に選ばれた人が城に連れられ、各々の役割に基づいた力を上の人に与えられる。
上の人というのは皇帝よりも偉く、生命に位を授ける概念のようなものらしい。
私は皇帝の護衛を任される位を授かったため、屈強な強面の強者を想像していたのだが、なぜか犬にされてしまった。
もちろんオオカミや物怪の類の犬ではない。
可愛らしい立ち耳のワンちゃんである。
吾輩は犬である。肉球しか無い。
これには国も困り果てた様子で、高官の者からグローブを授かった。
肉球のパンチを強化してくれるのだろうか。
私は人としての知能はあるが一つそこに大きな問題点があった。
喋ることができないのである。
自分の考えや思いを口にできない。私にできることは吠えることだけである。
一部の高官や、上族は言語や種族間の壁なく意思疎通がとれるというが、ほとんどの者がそんな芸当はできないので、私との意思疎通は難しくなる。
一体全体これで何を護衛すれば良いのか甚だ疑問である。
結局私に与えられた仕事は姫の護衛であった。
護衛というか、単なる愛玩動物である。
常に姫君の元に駐在できるので、護衛としてピッタリな役職なのであろう。何を守れるのかはわからぬが。
数年後、国は傾いた。
日頃の圧政と流行りの疫病によって民は苦しみ、民だけでなく皇帝までもが倒れた。
国はこの病に対し最善の対応が取れず、足りぬ年貢を国は圧政によって無理矢理補おうとした結果、残った民も国を見捨て、謀反を起こした。
皇帝は病によって病死し、王妃も民によって誅殺された。
それでも民の怒りは治らず、血族を滅ぼすべく、若き姫にも武具を向けた。
私は姫の護衛である。喋ることもできず、装備もなく、手には肉球とグローブしか持たず。
しかし嘆いていても仕方がない、上の方に与えられた身で皇帝から賜った役職である。姫を守らねばならない。
姫を殺さんとやってきた者が異様であった。
「よう、ワンちゃん!手袋なんかつけて可愛いなぁ!
そこ、どいてくれない?」
男にはたしかに殺意と凶行を実行する狂気さを持っているはずなのに、言葉と表情からは一切それを感じさせないのである。
男は私に武具を押し付け、
「これ、ワンちゃんでも痛いよねぇ。つつくだけいい?つつくだけ!
...あぁ、ごめん、だめだよね。あはは。」
困惑する私の気持ちなんぞわかるはずもなく、男は冗談を言って破顔した。
そして私をみたまんまノールックかつノーモーションでそのまま武具で姫君を亡き者にした。
この男がやってきてからわずか数秒の出来事である。
私は盾になることすらも出来ずに国は滅んだ。
やがて王政を失った国は荒れ、姫を護る責務を果たせなかった私を処分する身分のものもおらず、疫病の被害すら犬の身故に受けずにいたため、私は荒廃したこの国を去った。
皮肉にも犬であるが故に全ての災難から免れ、私は辛くも生き残ってしまった。
その頃の私は目の前で姫を失い、何も出来なかった自分に情けなさすら感じず、途方に暮れていた。
星に願いを
流れ星が流れている間に、願い事を3回唱えるの。それが出来たのならば、きっとあなたの願いは叶う。
少女はずっと昔にそのようなことを自分の母に言われたのを思い出していた。
彼女は泥だらけの靴下を脱ぎ捨て、足の土を払い、散乱した本の類を拾い集める。
靴と鞄は無い。
彼女はいじめられていた。
今日は✕✕%○○[編集済]流星群の日らしい。クラスの同級生が言っているのが聞こえた。
夜空を仰ぎ、空に浮かぶ無数の星を見ながら彼女は唱えた。
世界が滅びますように
1回目
世界が滅びますように
2回目
世界が滅びますように
3回目
流れ星を見た訳でもないのに、彼女は3回そう呟くと、真上の星を睨みつけた。
しばらくして、その睨みつけた星は、先程までと比べ物にならないほど赤く輝き始めた。
赤い星は元あった星から僅かにズレるように移動し始め、やがて地平線の向こうへと星は流れていった。
しばらくして地平線の向こうが赤く輝いた気がした。
彼女は今見た不思議な光景に、驚くことはなく、それを自分自身不思議に思った。
いつの間にか彼女の心は満たされていた。
その後、南アメリカ大陸は消失した。
それに続き地響きと天変地異が起こったあと、地球は爆発を起こして宇宙の塵となった。
蜘蛛男
蜘蛛が嫌いな少年がいた。
彼は地球上のどんな生命体よりも蜘蛛が嫌いだった。
蜘蛛を見ると動悸が激しくなる。じっとりとした汗をかき、体が思うように動かなくなる。彼にとって蜘蛛は恐怖そのものであり、嫌悪感と気持ち悪さをそのまま具現化させた生き物なのである。
彼の両親は庭作りが趣味であった。
家の敷地には様々な植物が植えられており、立派に緑が生い茂った綺麗な庭を持っていた。
彼は自分の庭が大嫌いであった。なぜなら、夏から秋頃にかけて、大量のジョロウグモが巣を作るからである。
女郎蜘蛛の巣は円網と言い、規則性のある円型の網を張る。そのため、平気で庭の通路や木々の隙間に巣を張りまくり、当たり前のようにその真ん中に自分の体を構える。
蜘蛛嫌いな彼にとって、彼の家の庭は地獄そのものであった。
その季節になると、彼は毎日蜘蛛を避けながら庭を通過せねばならない。毎日毎日蜘蛛に気をつけて生活するうちに、彼の動体視力は蜘蛛を完全に捉えるレベルにまで達した。
なるべく蜘蛛を視界に入れたくないはずであるのに、その危険を察知するために彼の能力は皮肉にも蜘蛛を誰よりも早く認識できるように進化したのだ。
蜘蛛を目で捉え、体で避ける。いつしかその動きが身体に染み込んでいき、彼は蜘蛛を避ける事に特化した人類へと進化した。
そして時が経ち、彼は蜘蛛という脅威から自分を守るためなら、もはや宇宙の法則すらねじ曲げる領域に達していた。
ある日、宇宙から人型の生物が複数体南アメリカ大陸に飛来した。未確認生物は大陸の人類を侵略、捕食し、独特な繁殖の仕方で数を瞬く間に増やしていった。その後、北米やユーラシア大陸への進行を開始し、世界に終焉が訪れたと人類は悟った。
その頃、日本ではアラクノフォビアの男が1人、保護されていた。
それが蜘蛛を嫌い、蜘蛛を避け、蜘蛛を自分の周囲から完全に排除することを完全な法則として確立させていた、大人になった蜘蛛嫌いの少年であった。
保護した研究機関は、彼にとある薬を投与した。
それは、人型の生命体全てが蜘蛛として認識される薬である。人間やゴリラ、チンパンジーのようなヒト科に適応されることは既に研究結果から明らかにされていたが、件の人型の地球外生命体にもその効力があるのかは分からない。
効果は120時間有効である。
薬が効き始めたのか、蜘蛛嫌いの男は投与した職員を見て金切り声を上げ、涙を流しながら彼を指さした。
その後その職員は跡形もなく消滅した。
36時間後、日本から人類が消失。
48時間後、アジア地域の1部で人類が消失。
100時間後 宇宙から飛来した人型生命体が全て消滅。
120時間後 全人類消滅。彼は地球でただ1人、生き残った人類となった。
彼が正気を取り戻すと同時に、脳内に施された記憶処理が作動した。
恐らく薬の効力が切れることがトリガーとなって、記憶処理がされるように日本の研究職員によって細工されていたらしい。
彼はその記憶を頼りに、北米の研究機関へ移動した。
彼にとって全ヒト科が蜘蛛と化した世界で、蜘蛛を避けるために各地でヒト科を消滅させた際、彼の移動手段は4次元的なものに変化していたため、北米への移動に時間は取られなかった。
そこで彼は研究機関に保存された肉体データを基底の現実にダウンロードし、肉塊100体を作成した。
また、研究機関のサーバー上に保管された、人類100体のデータを選んで、肉塊にインストールを施した。
操作から数時間ほどで、100人の人間の蘇生に成功し、その中には彼に薬を投与した職員もいた。
「おめでとう。君と我々の勝利だ。」
そしてその職員はとあるプログラムを実行した。
object1024。
これはレベル5以上の緊急事態にのみ使用を許された、文明復興装置である。
やがて101人の人類は、文明と人類の生存に貢献する傀儡と化し、以後数百年かけて人類の復活を成功させた。
蟹男
けたたましく鳴り響くサイレンの音で飛び起きる。
目に入ったのは白い壁と天井で囲まれたいつもの無機質な部屋、床には市民プールのシャワールームのようなタイルが広がり、出入口は外から厳重にロックがかけられており、そこに私は閉じ込められている。
そのはずなのだが、今日は何故かその扉が開いていた。
寝る時に困るくらいうるさい蛍光灯のブーンと鳴り響く音は、サイレンにかき消されてほとんど聞こえない。
私は何も疑問に思うことなくその扉を開き、外へ出た。しかし、外には誰もおらず、サイレンの音だけがうるさく鳴り響いていた。どうやらこの階層から職員は既にいなくなっているらしい。
階段をめざして歩いていると、後ろから何かが追いかけてきたのを感じた。咄嗟に振り向くと何者かがすぐそこまで来ており、振り上げられた左腕の肩から先が、カニの爪のような形状になっている。
異形の姿をした男に驚いていると、私はあっさりそのカニの爪に袈裟斬りにされ、鮮血をぶちまけてその場に倒れ込んだ。
「なんだこいつ、検体じゃなくて職員の生き残りか?」
男はそうぼやくと、すぐさま走ってその場を去ろうとした。
しかし私は慣れた手つきで泣き別れになっている自分の胴体をくっつけ、よろよろと立ち上がった。血を失っているので、少しクラっとしたが、血液もすぐに回復するので問題は無い。
男は酷く驚いたようだった。
「確実に切断したんだけどな」
そう残して今度は頭上から股下にかけて一直線にカニの爪で切り裂かれた。流れるように見事な手さばきだった。
今度は切断を事前に覚悟していたので、倒れることはなく、そのまま切断面を押さえつけて再生させた。
逃げろ、そいつは脱走したレベル5の被検体だ、と後ろから声が聞こえた。
振り返ると、片腕が欠損した職員が拳銃片手に佇んでいた。どうやら私を他の職員と間違えていたらしい。レベル5の被検体と呼ばれた蟹の男はすぐさま私を斬り直し、その切断面と切断面の間を通り抜けて職員に向かって一直線に走っていった。そのまま職員の銃弾を躱して裂き殺した。
彼は自分をジュンと名乗った。この研究機関に収容された被検体の一体であり、自称最強の異形との事だ。自分の腕で殺せなかった生物は居ないらしい。私が初めて死ななかった生命体だと教えてくれた。
何者かと聞かれてので、私は答える。
私は不死身の肉体を持った被検体であり、機関は私を殺すための研究と実験を毎日行っていた。
何をやっても死なない私と、絶対に殺す蟹男、この2人が鉢合わせたのは偶然ではない気がする。
蟹男に10回ほど体を切り裂かれながらそんな考察をしていると、彼は飽きたのか着いてこいと一言述べた。
私は言われるがままに彼について行った。もしかしたら自分を殺せるのは彼だけなのかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、けたたましくサイレンが鳴り響く廊下を彼と2人、駆け出すのであった。
object1024
object1024は、今まで何度も崩壊した高度文明期の文明を、その数復興させてきた装置、プログラムを指す。
この装置の説明をする前に必要な、人の脳に関して先に述べておこう。
人の脳は、高度文明期に入ってしばらくしてようやく解明されたものである。
ヒトの肉体を操り、情報を無尽蔵に記録し、それを解析する処理能力の高さは、長年解明されることは無かった。
しかし、西暦2160年に北米の研究機関に所属する研究者Tの発表した論文によって状況は一変する。
人の脳を一定のプログラム通りに制御する物質が開発されたのだ。
この物質が世界に与えた影響は、ここに書かなくても容易に想像できるだろうから、あえてこの報告書には記載しない。
やがて西暦2300年を超えたあたりで、この物質を半径約200kmの範囲に散布し、そこに存在する人間に一定の行動を強制する装置が開発された。
この装置には以下の条件をクリアすることで、初めて作動するとされている。
・この装置で実行するためのプログラム作成には、必ず1人のみの遺伝子データを登録されている。
・プログラムを実行する人は、登録された遺伝子データと適合率99.8%以上の遺伝子を持つ人間が実行する。
・必ず人間の文明を復興する内容をプログラムする。
この3点を満たすことで実行され、周囲の人間は記憶と脳の一部が改竄され、文明の復興に生涯を費やす生き物となる。プログラムされた水準にまで文明の回復が認められるまでは、その子孫すら復興に生涯を費やす。
object1024の実行により、今まで何度も文明の崩壊を防いできた。
記録が残っている中で、object1024が使用されたのは2399年の世界崩壊時、その次は2560年の厄災後の200年後である2760年の2回であるとされている。
現在object1024は当機関にて厳重勝つ安全に保管されている。
王道RPG
「魔王を倒してきて欲しい。」
国の長からそう頼まれた。
もちろん答えはYESだ。じゃないと何も始まらない。
今まで魔王を倒すために精一杯努力し、頑張ってきた。勇者バッジなるものを身につけ、伝説の武器が眠る山から勇者の専用の武器を取りにもいった。
仲間を二人連れて、国の軍隊が全く敵わなかった魔族の国へ3人で乗り込みに行く。
魔王城についた。魔王と戦い、そして倒した。
しかし魔王は言った。
「俺は人間だ。」
魔王が人間であるなら、その民である魔族も人間であることになる。比較的人に近しい見た目を持つ魔王と違い、彼らは異形そのものであったが、魔王はそれら全てを人であると主張した。
命乞いのつもりなのかは分からないが、今まで自分が人殺しをしていたとは趣味の悪い冗談である。一応このことを国の長に報告したら、鼻で笑われた。
代わりに古代文明を研究している国の研究者の1人(以下Aとする)が、自分が昔所属していた研究所にあった魔族についての文献に、そのようなことが書いてあったと言っていたので、今度は魔王を連れてその研究所へ向かうことにした。
こうして勇者一行は国の外れにある、森で囲まれた研究所へ向かって行った。
国の長は魔王を生かしておくことに納得できなかったが、新しいことがわかるかもしれないと、彼らのその行動を許可した。
しかし、それから3ヶ月たっても彼らが帰ってくることはなく、連絡すらつかなかった。
このことを重く見た国の長は直ぐに部隊を編成し、研究所へ派遣した。この部隊も勇者一行と同様、研究所から帰ってくることは無かった。
2度目の研究所派遣部隊を編成しようかと長が考えていると、件の研究所出身のAが研究所の様子を見に行くと言った。貴重な研究者であったため、長は渋ったが、彼女に護衛をつけた上で、危険を僅かにでも察知したら直ぐに撤退することを条件にこれを許可した。
Aは5日後に帰還した。
「研究所にたどり着けません。」
もちろん、彼女が道に迷ったなどということでは無い。
どれだけ歩けど森を抜けられなかったという。遠方から研究所は目視できるのに、まるでその部分だけ空間が歪んだかのようにたどり着けないとのことであった。
ひとまず無事にたどり着いたAとその護衛に労いの言葉を託し、長は完全な武力行使を決意した。
それから国の技術を全て用いた総攻撃が研究所に行われた。研究所に直接たどりつけないとの事だったので、遠距離攻撃で爆撃を中心とした攻撃を行ったが、森が全焼しただけで、研究所に損害を与えた形跡はなかった。
どれだけ攻撃しても、研究所に対する手応えはなく、まるでホログラムのように攻撃がすり抜けていた。
研究所に対して国ができることはやり尽くしてしまった。しかし、誰も近づかなければ無害であることから、国は研究所を古代文明構造物に指定し、危険度を5段階中最高のステージ5として周辺10km以内に誰も近づけないよう規制を施した。
これにて勇者一行と研究所に関する事件は幕を閉じたと思われた。
しかし、研究所が古代文明構造物に指定されてから10年が経った今、状況は一変する。
眩い光とともに研究所の一部が爆発し、空間ごと穴が空いたのだ。これを観測した国の観測班は即座に緊急アラートを鳴らし、住民を城のシェルターに避難させて観測を続けた。
しかし、彼らの想像とは裏腹に、研究所は自壊した。
なんの攻撃も受けていないのに、まるで総攻撃にあったかのように爆発を繰り返し、研究所が勝手に瓦礫の山と化したのだ。
その後、1度研究所へ派遣されたこともあるAを中心に調査隊が編成され、研究所跡地へと派遣された。
以下はその時のAの報告所の1部を抜粋したものである。
私が研究所跡地にたどり着いてから3日ほどたった頃、研究所から14kmほど離れた地点にて、黒いオブジェクトが発見された。
よく見るとそれは焦げたカプセルであり、開けると中からUSBメモリが発見された。
私はこの中身のデータを閲覧するため、所持していたPCで中身を解析した。するとそこにはテキストファイルと実行ファイルがひとつずつ、暗号化されたフォルダが1つ入っていた。テキストファイルにはこう書かれていた。
「私はマクナル。
以前は国で勇者を名乗っていた者だ。
私たちがこの研究室に到着したら、中はもぬけの殻であった。数日間人がここにいた形跡はなく、研究所のセキュリティ機能のみが作動しており、このセキュリティシステムによって私以外の仲間と魔王は世界から消されてしまった。
『世界に消される』、これがどういうことなのかと言うと、この研究所で調べた文献に、興味深いものがあったので先に抜粋しておく。
『人は肉体と魂それぞれがデータとして存在しており、死後、その魂のデータは古代文明によってサーバに保存され、肉体のデータは基底となる現実で廃棄される。これにより、輪廻転生を人工的に行えるようになった。
基底となる現実に親和率95%以上の肉体を用意出来れば、魂のデータから特定の個人を復元することは容易である。』
つまり、世界から消されるというのは、このシステムから完全に除外されたということである。
彼らは『輪廻転生』も『復元』絶たれてしまった。
また、この研究室に関して分かったことが2つある。1つ目は、ここが古代文明を研究する施設ではなく、古代文明を保管し、文明のシステムによってこれを管理していただけの施設であったということだ。
そして研究職員は、機密事項である古代文明以外の仮の研究内容を与えられ、それを古代文明として研究していたらしい。
しかし、なぜか魔族に古代文明の内容の一部が漏洩したため、世界に張り巡らされたネットワークがこれを探知し、真相を知る幹部メンバーと、一部の職員のみをコールドスリープさせ、残りの研究職員を世界から消すという機構が働いた。
これが私たちが研究所に到着した時にもぬけの殻であった原因であると推測する。
そして2つ目に分かったことであるが、ここは基底の現実とは断絶された別空間であるということだ。
上記機構が働いてから、この研究所の中のみが別の空間と接続されており、時間の流れ及び外界との接続が完全に絶たれてしまっている。
そのため、私が帰還することは絶望的であり、私は自死しようとした。しかし、調査が先決であると思いとどまった。
ある時私は、国の研究員であるAと出会った。
最初はありえない事態に困惑したが、彼女の見た目の変化と言動から、私と同じくこの空間に迷い込んでしまったのだろうと認識した。
ここは時間の概念も空間の概念ももはやめちゃくちゃであり、このように時空のねじれによって本来ありえない世界線の交差が起こりうるのだと推測した。
彼女の容姿は私が知っている状態より20年から30年ほど老けており、初老の女性といった印象を受けたが、不思議と彼女をAであると認識できた。
『私はあなた達を捜索するために研究所へ派遣された。そして研究所に迷い込んで出られなくなって、とても長い時間をここで過ごした。
ここの空間は体感時間と肉体が受ける時間が必ずしも一致するとは限らない。私は肉体が受けた時間の何倍もの時間をここで過ごしたように感じる。』
彼女は既に、ここでの研究をやり尽くして脱出する方法を探しているらしい。
そこで当初の目的であった、魔族と人間の関連性について私は尋ねることにした。
『そういえばあなた達はそれが目的でここに来たものね。
この世界は、古代文明によって最低1回、いや、これは推測ではあるけど恐らく何回も滅びてる。
あなた達が失踪したくらいの時から、約200年くらい前に、古代文明装置のひとつが空輸中に大破し、汚染物質が世界中に散布された。
古代文明人たちはこれを"厄災"と呼んだ。
大破によるエネルギー爆発と、汚染物質による環境汚染によって大陸の93%、海洋の73%が完全に汚染されてしまい、この影響で当時の人口は厄災前の3%にまで落ち込んだ。そして文明は瞬く間に退化した。
しかし、生き残った人類のうち、1部の人々は汚染されていない僅かな大地で生活た。それが今の"国"である。
やがて彼らは退化し続け、消えゆく古代文明を少しでも防ぐべく、文明の保管を文明の保管、管理、そして万が一の際に技術漏洩を避けることを目的とした様々な機構を兼ね備えた1つの施設を立ち上げた。それがここ、研究所というわけ。
文明維持を図らず、汚染された大地での生活を余儀なくされた人類ももちろん存在した。
彼らは汚染によって最初こそ数を減らしつつあったが、ある時から負荷に耐性が付き始め、人口減少に歯止めをかけた。しかし、それと同時に産まれてくる個体に様々な変異が見られるようになった。彼らは子孫を繁栄させればさせるほど、その姿を異形へと変貌させていった。
それが今の魔族との記録よ。』
つまり、魔族は本当に人間であり、国はそんな彼らを排他していたことになる。
そうか、それが分かれば満足だ。
私は彼女に感謝と御礼の言葉を告げ、所持していた拳銃を顬に当てた。
引き金を引こうとしたが、それはあっさりとAによって無効化される。
『死ぬ前にその銃、貰えないかしら。これを改造すればここから脱出する手がかりになるかもしれない。
そして可能なら、私のその姿を見届けて欲しい。』
こうしてAに強引に拳銃を取り上げられた。3年ほど銃の弄り回した後、彼女は完成したと短く報告した。
そこには、改造前と大きさ以外大して変わらない拳銃と、銀色のカプセル、それとUSBメモリだった。
『 この銃は空気を始めとして、なんでも射出できる万能射出装置よ。
そしてこの銀のカプセル。私は長年の研究で、この研究所の特性を完全に把握している。この銀の弾に祈りを込めて射出することで、この時空の歪んだ空間ごと削り取り、外界へ穴を開けることができるはず。
そしてこのUSBメモリにあなたが知りたがっていた機密データと、文明復興プログラムの実行ファイルを入れて置いたわ。このUSBメモリを銀のカプセルに入れてその銃で射出することで、もしかしたら外界の人間が報告書を解析し、文明復興プログラムを起動してくれるかもしれない。
この銀色のカプセルは、あらゆる衝撃に耐えられるように特殊なコーティングをしている。銃の射出と空間を通過する際の衝撃、落下の衝撃全てに耐えられるはず。
あと、自分が保存したいデータがあればそれを保存しておきなさい。』
そして私はここで起こった一連の流れを、こうしてテキストファイルに記録しているというわけだ。
もしこれを誰かが読んだのなら、暗号化されたファイルを解析して欲しい。
そこにこの世界の真実全てが載っているので、それをどうするかはこれを手にした者に委ねる。
これは直感だが、私の予想だとこのUSBメモリはAが拾っているのではないかと思っている。"これは直感だが…"以降は、Aの遺伝子が存在していない個体には表示されないようになっている。
Aが拾っているなら、お願いがある。
このUSBメモリに同封されている文明復興プログラムは、国の城の地下コンピュータで実行することにより、その装置が基底の現実にダウンロードされる。しかし、文明復興プログラム、及びその装置の開始に、研究所の技術漏洩防止システムが作動してしまう。
最悪の場合、このシステムに全ての人類が世界から消されてしまう可能性すらある。
そのため、Aがこの実行ファイルを作成した際、彼女の遺伝子データによって認証されないと、そもそも文明復興プログラムを実行できないようにした。
なので、Aにはもうひとつの研究所である魔族の大地の研究所を破壊して欲しい。破壊の仕方はこれを読んでいる君なら既に理解していると思う。
健闘を祈る。
マクナル」
祈りを込める。
具体的な話なのに、この一文だけやたらとあやふやなのは、恐らく本当に祈りを込めて弾を撃てということなのだろう。
私はその後、この報告書ともうひとつ、長への提出用の報告書を作成し、魔族の大陸へ行って研究所に国の兵器を用いて総攻撃をした。
その後私が銃を研究所に向けて撃つと、空間に歪みが生じ、時間差で研究所は様々な損傷を受けて自壊した。
国へ戻り、私は城の地下を目指す。
この報告書を受け取った長は、急いで地下へと向かったが、そこには既に作動した見覚えのない装置と、Aが横たわっているだけであり、文明復興プログラムが実行されたと悟った長は、そのまま自室へ戻り、横になって眠りについた。
Aが目を覚ますと、周りの人間は既に厄災のことや古代文明のことを覚えていなかった。それどころかAのことすら覚えていなかった。
長含めて、みんな必死に文明復興のために毎日働いていた。喋ることも無く、生命維持のために最低限食事をするロボットと化していた。彼らはもう、自分がなんのために働いているのかを認識できていないのだ。
なるほど、文明復興プログラムというのはこういうことだったのか。
それを理解した彼女は、彼らに交じって文明の復興を手伝うのであった。