仮面(元)、1Kの隠れ家

心が暇なので、厨2病だった頃に思いを馳せて、痛々しいものを書きたい

蜘蛛男

蜘蛛が嫌いな少年がいた。

彼は地球上のどんな生命体よりも蜘蛛が嫌いだった。
蜘蛛を見ると動悸が激しくなる。じっとりとした汗をかき、体が思うように動かなくなる。彼にとって蜘蛛は恐怖そのものであり、嫌悪感と気持ち悪さをそのまま具現化させた生き物なのである。

彼の両親は庭作りが趣味であった。

家の敷地には様々な植物が植えられており、立派に緑が生い茂った綺麗な庭を持っていた。

彼は自分の庭が大嫌いであった。なぜなら、夏から秋頃にかけて、大量のジョロウグモが巣を作るからである。
女郎蜘蛛の巣は円網と言い、規則性のある円型の網を張る。そのため、平気で庭の通路や木々の隙間に巣を張りまくり、当たり前のようにその真ん中に自分の体を構える。

蜘蛛嫌いな彼にとって、彼の家の庭は地獄そのものであった。
その季節になると、彼は毎日蜘蛛を避けながら庭を通過せねばならない。毎日毎日蜘蛛に気をつけて生活するうちに、彼の動体視力は蜘蛛を完全に捉えるレベルにまで達した。

なるべく蜘蛛を視界に入れたくないはずであるのに、その危険を察知するために彼の能力は皮肉にも蜘蛛を誰よりも早く認識できるように進化したのだ。

蜘蛛を目で捉え、体で避ける。いつしかその動きが身体に染み込んでいき、彼は蜘蛛を避ける事に特化した人類へと進化した。

そして時が経ち、彼は蜘蛛という脅威から自分を守るためなら、もはや宇宙の法則すらねじ曲げる領域に達していた。


ある日、宇宙から人型の生物が複数体南アメリカ大陸に飛来した。未確認生物は大陸の人類を侵略、捕食し、独特な繁殖の仕方で数を瞬く間に増やしていった。その後、北米やユーラシア大陸への進行を開始し、世界に終焉が訪れたと人類は悟った。


その頃、日本ではアラクノフォビアの男が1人、保護されていた。

それが蜘蛛を嫌い、蜘蛛を避け、蜘蛛を自分の周囲から完全に排除することを完全な法則として確立させていた、大人になった蜘蛛嫌いの少年であった。


保護した研究機関は、彼にとある薬を投与した。

それは、人型の生命体全てが蜘蛛として認識される薬である。人間やゴリラ、チンパンジーのようなヒト科に適応されることは既に研究結果から明らかにされていたが、件の人型の地球外生命体にもその効力があるのかは分からない。

効果は120時間有効である。


薬が効き始めたのか、蜘蛛嫌いの男は投与した職員を見て金切り声を上げ、涙を流しながら彼を指さした。

その後その職員は跡形もなく消滅した。




36時間後、日本から人類が消失。

48時間後、アジア地域の1部で人類が消失。





100時間後 宇宙から飛来した人型生命体が全て消滅。


120時間後 全人類消滅。彼は地球でただ1人、生き残った人類となった。


彼が正気を取り戻すと同時に、脳内に施された記憶処理が作動した。
恐らく薬の効力が切れることがトリガーとなって、記憶処理がされるように日本の研究職員によって細工されていたらしい。



彼はその記憶を頼りに、北米の研究機関へ移動した。

彼にとって全ヒト科が蜘蛛と化した世界で、蜘蛛を避けるために各地でヒト科を消滅させた際、彼の移動手段は4次元的なものに変化していたため、北米への移動に時間は取られなかった。



そこで彼は研究機関に保存された肉体データを基底の現実にダウンロードし、肉塊100体を作成した。


また、研究機関のサーバー上に保管された、人類100体のデータを選んで、肉塊にインストールを施した。


操作から数時間ほどで、100人の人間の蘇生に成功し、その中には彼に薬を投与した職員もいた。



「おめでとう。君と我々の勝利だ。」


そしてその職員はとあるプログラムを実行した。

object1024。

これはレベル5以上の緊急事態にのみ使用を許された、文明復興装置である。



やがて101人の人類は、文明と人類の生存に貢献する傀儡と化し、以後数百年かけて人類の復活を成功させた。