仮面(元)、1Kの隠れ家

心が暇なので、厨2病だった頃に思いを馳せて、痛々しいものを書きたい

王道RPG

「魔王を倒してきて欲しい。」

 国の長からそう頼まれた。
もちろん答えはYESだ。じゃないと何も始まらない。

 今まで魔王を倒すために精一杯努力し、頑張ってきた。勇者バッジなるものを身につけ、伝説の武器が眠る山から勇者の専用の武器を取りにもいった。

 仲間を二人連れて、国の軍隊が全く敵わなかった魔族の国へ3人で乗り込みに行く。

 魔王城についた。魔王と戦い、そして倒した。
しかし魔王は言った。
「俺は人間だ。」
 
 魔王が人間であるなら、その民である魔族も人間であることになる。比較的人に近しい見た目を持つ魔王と違い、彼らは異形そのものであったが、魔王はそれら全てを人であると主張した。
 
 命乞いのつもりなのかは分からないが、今まで自分が人殺しをしていたとは趣味の悪い冗談である。一応このことを国の長に報告したら、鼻で笑われた。
 
 代わりに古代文明を研究している国の研究者の1人(以下Aとする)が、自分が昔所属していた研究所にあった魔族についての文献に、そのようなことが書いてあったと言っていたので、今度は魔王を連れてその研究所へ向かうことにした。

 こうして勇者一行は国の外れにある、森で囲まれた研究所へ向かって行った。
 国の長は魔王を生かしておくことに納得できなかったが、新しいことがわかるかもしれないと、彼らのその行動を許可した。


 しかし、それから3ヶ月たっても彼らが帰ってくることはなく、連絡すらつかなかった。

 このことを重く見た国の長は直ぐに部隊を編成し、研究所へ派遣した。この部隊も勇者一行と同様、研究所から帰ってくることは無かった。

 2度目の研究所派遣部隊を編成しようかと長が考えていると、件の研究所出身のAが研究所の様子を見に行くと言った。貴重な研究者であったため、長は渋ったが、彼女に護衛をつけた上で、危険を僅かにでも察知したら直ぐに撤退することを条件にこれを許可した。

Aは5日後に帰還した。


「研究所にたどり着けません。」


 もちろん、彼女が道に迷ったなどということでは無い。
どれだけ歩けど森を抜けられなかったという。遠方から研究所は目視できるのに、まるでその部分だけ空間が歪んだかのようにたどり着けないとのことであった。

 ひとまず無事にたどり着いたAとその護衛に労いの言葉を託し、長は完全な武力行使を決意した。

 それから国の技術を全て用いた総攻撃が研究所に行われた。研究所に直接たどりつけないとの事だったので、遠距離攻撃で爆撃を中心とした攻撃を行ったが、森が全焼しただけで、研究所に損害を与えた形跡はなかった。
 どれだけ攻撃しても、研究所に対する手応えはなく、まるでホログラムのように攻撃がすり抜けていた。


 研究所に対して国ができることはやり尽くしてしまった。しかし、誰も近づかなければ無害であることから、国は研究所を古代文明構造物に指定し、危険度を5段階中最高のステージ5として周辺10km以内に誰も近づけないよう規制を施した。


 これにて勇者一行と研究所に関する事件は幕を閉じたと思われた。



しかし、研究所が古代文明構造物に指定されてから10年が経った今、状況は一変する。


 眩い光とともに研究所の一部が爆発し、空間ごと穴が空いたのだ。これを観測した国の観測班は即座に緊急アラートを鳴らし、住民を城のシェルターに避難させて観測を続けた。

 しかし、彼らの想像とは裏腹に、研究所は自壊した。

 なんの攻撃も受けていないのに、まるで総攻撃にあったかのように爆発を繰り返し、研究所が勝手に瓦礫の山と化したのだ。

 
 その後、1度研究所へ派遣されたこともあるAを中心に調査隊が編成され、研究所跡地へと派遣された。


以下はその時のAの報告所の1部を抜粋したものである。






 私が研究所跡地にたどり着いてから3日ほどたった頃、研究所から14kmほど離れた地点にて、黒いオブジェクトが発見された。
 よく見るとそれは焦げたカプセルであり、開けると中からUSBメモリが発見された。
 私はこの中身のデータを閲覧するため、所持していたPCで中身を解析した。するとそこにはテキストファイルと実行ファイルがひとつずつ、暗号化されたフォルダが1つ入っていた。テキストファイルにはこう書かれていた。


「私はマクナル。
以前は国で勇者を名乗っていた者だ。
 私たちがこの研究室に到着したら、中はもぬけの殻であった。数日間人がここにいた形跡はなく、研究所のセキュリティ機能のみが作動しており、このセキュリティシステムによって私以外の仲間と魔王は世界から消されてしまった。
 『世界に消される』、これがどういうことなのかと言うと、この研究所で調べた文献に、興味深いものがあったので先に抜粋しておく。

 『人は肉体と魂それぞれがデータとして存在しており、死後、その魂のデータは古代文明によってサーバに保存され、肉体のデータは基底となる現実で廃棄される。これにより、輪廻転生を人工的に行えるようになった。
 基底となる現実に親和率95%以上の肉体を用意出来れば、魂のデータから特定の個人を復元することは容易である。』

 つまり、世界から消されるというのは、このシステムから完全に除外されたということである。
 彼らは『輪廻転生』も『復元』絶たれてしまった。


 また、この研究室に関して分かったことが2つある。1つ目は、ここが古代文明を研究する施設ではなく、古代文明を保管し、文明のシステムによってこれを管理していただけの施設であったということだ。

 そして研究職員は、機密事項である古代文明以外の仮の研究内容を与えられ、それを古代文明として研究していたらしい。


 しかし、なぜか魔族に古代文明の内容の一部が漏洩したため、世界に張り巡らされたネットワークがこれを探知し、真相を知る幹部メンバーと、一部の職員のみをコールドスリープさせ、残りの研究職員を世界から消すという機構が働いた。


 これが私たちが研究所に到着した時にもぬけの殻であった原因であると推測する。

 そして2つ目に分かったことであるが、ここは基底の現実とは断絶された別空間であるということだ。

 上記機構が働いてから、この研究所の中のみが別の空間と接続されており、時間の流れ及び外界との接続が完全に絶たれてしまっている。

 そのため、私が帰還することは絶望的であり、私は自死しようとした。しかし、調査が先決であると思いとどまった。

 ある時私は、国の研究員であるAと出会った。
 最初はありえない事態に困惑したが、彼女の見た目の変化と言動から、私と同じくこの空間に迷い込んでしまったのだろうと認識した。
 ここは時間の概念も空間の概念ももはやめちゃくちゃであり、このように時空のねじれによって本来ありえない世界線の交差が起こりうるのだと推測した。

 彼女の容姿は私が知っている状態より20年から30年ほど老けており、初老の女性といった印象を受けたが、不思議と彼女をAであると認識できた。


『私はあなた達を捜索するために研究所へ派遣された。そして研究所に迷い込んで出られなくなって、とても長い時間をここで過ごした。
 ここの空間は体感時間と肉体が受ける時間が必ずしも一致するとは限らない。私は肉体が受けた時間の何倍もの時間をここで過ごしたように感じる。』

 彼女は既に、ここでの研究をやり尽くして脱出する方法を探しているらしい。
 そこで当初の目的であった、魔族と人間の関連性について私は尋ねることにした。

『そういえばあなた達はそれが目的でここに来たものね。

 この世界は、古代文明によって最低1回、いや、これは推測ではあるけど恐らく何回も滅びてる。
 あなた達が失踪したくらいの時から、約200年くらい前に、古代文明装置のひとつが空輸中に大破し、汚染物質が世界中に散布された。

古代文明人たちはこれを"厄災"と呼んだ。

大破によるエネルギー爆発と、汚染物質による環境汚染によって大陸の93%、海洋の73%が完全に汚染されてしまい、この影響で当時の人口は厄災前の3%にまで落ち込んだ。そして文明は瞬く間に退化した。
 しかし、生き残った人類のうち、1部の人々は汚染されていない僅かな大地で生活た。それが今の"国"である。
 やがて彼らは退化し続け、消えゆく古代文明を少しでも防ぐべく、文明の保管を文明の保管、管理、そして万が一の際に技術漏洩を避けることを目的とした様々な機構を兼ね備えた1つの施設を立ち上げた。それがここ、研究所というわけ。

 文明維持を図らず、汚染された大地での生活を余儀なくされた人類ももちろん存在した。
 彼らは汚染によって最初こそ数を減らしつつあったが、ある時から負荷に耐性が付き始め、人口減少に歯止めをかけた。しかし、それと同時に産まれてくる個体に様々な変異が見られるようになった。彼らは子孫を繁栄させればさせるほど、その姿を異形へと変貌させていった。
 それが今の魔族との記録よ。』


 つまり、魔族は本当に人間であり、国はそんな彼らを排他していたことになる。


そうか、それが分かれば満足だ。

 私は彼女に感謝と御礼の言葉を告げ、所持していた拳銃を顬に当てた。

 引き金を引こうとしたが、それはあっさりとAによって無効化される。
 
『死ぬ前にその銃、貰えないかしら。これを改造すればここから脱出する手がかりになるかもしれない。
そして可能なら、私のその姿を見届けて欲しい。』


 こうしてAに強引に拳銃を取り上げられた。3年ほど銃の弄り回した後、彼女は完成したと短く報告した。
 そこには、改造前と大きさ以外大して変わらない拳銃と、銀色のカプセル、それとUSBメモリだった。

『 この銃は空気を始めとして、なんでも射出できる万能射出装置よ。
 そしてこの銀のカプセル。私は長年の研究で、この研究所の特性を完全に把握している。この銀の弾に祈りを込めて射出することで、この時空の歪んだ空間ごと削り取り、外界へ穴を開けることができるはず。

 そしてこのUSBメモリにあなたが知りたがっていた機密データと、文明復興プログラムの実行ファイルを入れて置いたわ。このUSBメモリを銀のカプセルに入れてその銃で射出することで、もしかしたら外界の人間が報告書を解析し、文明復興プログラムを起動してくれるかもしれない。

 この銀色のカプセルは、あらゆる衝撃に耐えられるように特殊なコーティングをしている。銃の射出と空間を通過する際の衝撃、落下の衝撃全てに耐えられるはず。

 あと、自分が保存したいデータがあればそれを保存しておきなさい。』


 そして私はここで起こった一連の流れを、こうしてテキストファイルに記録しているというわけだ。


もしこれを誰かが読んだのなら、暗号化されたファイルを解析して欲しい。 
そこにこの世界の真実全てが載っているので、それをどうするかはこれを手にした者に委ねる。


これは直感だが、私の予想だとこのUSBメモリはAが拾っているのではないかと思っている。"これは直感だが…"以降は、Aの遺伝子が存在していない個体には表示されないようになっている。

Aが拾っているなら、お願いがある。

 このUSBメモリに同封されている文明復興プログラムは、国の城の地下コンピュータで実行することにより、その装置が基底の現実にダウンロードされる。しかし、文明復興プログラム、及びその装置の開始に、研究所の技術漏洩防止システムが作動してしまう。

 最悪の場合、このシステムに全ての人類が世界から消されてしまう可能性すらある。

 そのため、Aがこの実行ファイルを作成した際、彼女の遺伝子データによって認証されないと、そもそも文明復興プログラムを実行できないようにした。


 なので、Aにはもうひとつの研究所である魔族の大地の研究所を破壊して欲しい。破壊の仕方はこれを読んでいる君なら既に理解していると思う。


健闘を祈る。


マクナル」



祈りを込める。

具体的な話なのに、この一文だけやたらとあやふやなのは、恐らく本当に祈りを込めて弾を撃てということなのだろう。



 私はその後、この報告書ともうひとつ、長への提出用の報告書を作成し、魔族の大陸へ行って研究所に国の兵器を用いて総攻撃をした。

 その後私が銃を研究所に向けて撃つと、空間に歪みが生じ、時間差で研究所は様々な損傷を受けて自壊した。




国へ戻り、私は城の地下を目指す。



この報告書を受け取った長は、急いで地下へと向かったが、そこには既に作動した見覚えのない装置と、Aが横たわっているだけであり、文明復興プログラムが実行されたと悟った長は、そのまま自室へ戻り、横になって眠りについた。







 Aが目を覚ますと、周りの人間は既に厄災のことや古代文明のことを覚えていなかった。それどころかAのことすら覚えていなかった。
 長含めて、みんな必死に文明復興のために毎日働いていた。喋ることも無く、生命維持のために最低限食事をするロボットと化していた。彼らはもう、自分がなんのために働いているのかを認識できていないのだ。



なるほど、文明復興プログラムというのはこういうことだったのか。



それを理解した彼女は、彼らに交じって文明の復興を手伝うのであった。